破産手続を進める場合、会社の事業は停止し、従業員も解雇することになります。
しかし経営者としては自らの判断で従業員の生活に多大な影響を及ぼすことになるため、何か保障できることはないのかと考えることもあるでしょう。
ここでは倒産をする場合の従業員に対する配慮や、取るべき対応について解説しています。
経営者は何を心がけるべきか
従業員を解雇するということは、労働関係法および雇用保険法等が適用されることになり、その法に則った手続を採らなければなりません。
また給料等の労働債権は、一般の債権よりも優先的に扱っていいと破産法で定められています。
そのため支払いができるよう会社財産を確保し、これらの制度を理解した上で従業員に対し説明ができるようになるべきでしょう。
早い段階で納得のいく説明をしてあげる
従業員に対する保障の制度はいくつかあります。
未払いの給料や退職金などは一般の債権者に対する配当よりも優先的に支払うことができるなど、最低限の保障は確保されます。
しかしこのことを知らない従業員も多くいるため、突然倒産による解雇をするとだけ伝えるのではなく、早期に制度上の保障があることも伝えるようにしましょう。
解雇の知らせしかない場合、従業員の混乱を招き、会社財産が散逸してしまうおそれもあります。
通常は破産手続開始決定を受けると会社財産は破産財団となり、破産管財人が管理することになります。
しかし破産の事実が周知されてからは盗難などのリスクも高まるため、少しでも状況を落ち着かせるためにはしっかりと説明をすることが大切になってきます。
転職のサポートをする
解雇されてしまった従業員は、転職活動を始めなければなりません。
転職活動中は給料が発生しないため急いで職に就かなければならないと焦る方もいるかもしれません。
ただ確かに時間はないかもしれませんが、制度上は失業手当をもらうことも可能ですので、今すぐに仕事に就かなければならないとも限りません。
この点も経営者など、幹部が漏れなく説明をするよう配慮しましょう。
また転職に関するサポートとしては他にも、就職先の斡旋など、できることがあればやってあげるといいでしょう。
関連する企業の求人を積極的に紹介するのもいいでしょう。
また繋がりの強い企業へお願いするといったことも有効的かも知れません。
解雇のタイミングには注意
倒産による従業員の解雇時期は非常に重要です。
それは直接的な従業員への配慮というよりも、会社を含めた全体のためになることです。
一般的には事業停止後、破産の申立て段階で従業員を即時解雇するケースが多いです。
ただし具体的日程については支払停止の時期や破産準備に従業員が協力してくれそうかどうかによっても変わってきますので、弁護士に相談して検討しましょう。
特に経理業務などは破産申立後も必要となるため、経理担当をしばらく残すということもありますし、雇用を継続せず、解雇後にアルバイトとして再度協力してもらうという手法もあります。
従業員に関する社会保障制度
会社が倒産した場合の、従業員に関する社会保障制度ですが、主なものとして失業保険制度と未払賃金立替制度が挙げられます。
失業保険制度
失業保険制度とは、失業した際に手当がもらえる制度のことで、雇用保険とも呼ばれます。
手当のもらい方についてはいくつかのパターンがあり、自主的に退職した場合でも支給はされます。
しかし会社の都合で解雇されてしまったときや、年齢、勤続年数などに応じて支給総額・支給日数は変化します。
特に倒産による解雇では、失業日までの前1年間に通算して6か月の出勤があれば受給できるなど、自主退職よりも手厚く保障されるようになっています。
この制度を伝えるとともに、ハロワークで申請ができることなど、具体的な手続についても教えるようにしましょう。
未払賃金立替払制度
未払賃金立替払制度とは、賃金が未払いのまま倒産した場合に、国がこれを立替えて支払ってくれるという制度です。
ただし全額ではなく、未払いになっている額の8割と決められています。
さらに上限額についても296万円と定められるなど制限もあります。
労働基準監督署が窓口になっており、失業手当とは手続きも異なる点しっかりと把握しておく必要があるでしょう。
解雇をするための手続
従業員を解雇する場合、解雇通知書を交付し、受領書を受け取るのが望ましいです。
解雇した従業員に対しては、失業手当の受給、再就職で必要となる書類の交付や健康保険・厚生年金等に関する手続などを速やかに行うべきです。
また労働基準法では従業員を解雇する場合、30日前には予告が必要としており、それ以前の解雇については解雇予告手当を支払わなければならないとされています。
そのため即時解雇なら上限の30日分について、平均賃金を支払うことになります。
このように、倒産に伴う従業員の解雇では様々な保障制度やルールが定められています。
しかしどれだけ長い付き合いのある取引先であっても、債権者は皆平等であるため、優先的に債務を弁済することは許されません。
債権者との関係についても注意しつつ、従業員への配慮をするようにしましょう。